心とは氷山のようなものである
ジークムント・フロイト
氷山はその大きさの
7分の1を海面の上に出して漂う
皆様こんにちは、酒好きブロガーのシサカです!
突然だが皆さんは、BARでウイスキーなどをオーダーした瞬間に聞こえる「カラン」という音はお好きだろうか。
わたしはかなり好きだ。あの音が鳴ると
シサカ嗚呼、いい時間だ…。
という気持ちになるわけですね。
まさに至福の時です。
…ですがところ変わって家でウイスキーロックやハイボールを作るとき、なぜかあの音がしない。
最初は「まあ、雰囲気の問題だろう」と気にしていなかったのですが、少し調べてみたらこれが単なる雰囲気の話ではなかったのです。
今回はそんな一杯に隠された秘密に迫る話をしようと思います。
美味しさの正体は『氷』


結論から言うと、あの音と味は氷の硬さから生まれています。
実はこの「カラン」という音は一般的な製氷機で作られた氷では出すことのできない音なのだそうです。
密度が高くて硬い氷ほど、グラスに触れたとき澄んだ高い音が出る。やわらかい氷だと鈍い音しか出ない。
プロのバーテンダーはその「音」と「艶色(つやいろ)」で氷の質を判断しているという話もあって、つまりあの「カラン」は氷の品質証明みたいなものだったわけです。
さらに興味深いのは、バーテンダーさんが氷にウイスキーを注ぐときの所作にも意味があるということ。
上からゆっくりとウイスキーを注いでいくと、削られた氷の表面を液体が流れ、まるでクリスタルのような艶を放つのだそうです。だからオーセンティックなBARでは、バカラなどのクリスタルグラスと硬い氷を合わせて、あの「カラン」という音までを一杯の体験として設計している。
氷ひとつにそこまでの世界があったのかという感じですよね。



じゃあなんで家の氷は硬くないの?
——という疑問が起こるわけですが、それを紐解くために製氷のメカニズムを少し深堀りしたいと思います。
製氷に大事なのは「純度」と「硬さ」


氷にこだわりがあるお店ほど、業者さんから専用の氷を仕入れています。
理由はシンプルで、「美味しくて溶けにくいから」。
ではなぜそんな氷ができるのか、その秘密は「純度」と「硬さ」という二つのキーワードに隠されています。
まずは「純水」を作ることから始まる
私たちが普段使う水道水には、衛生管理のために次亜塩素酸ナトリウム、いわゆるカルキが混入しています。
水道法では蛇口から出る水に0.1ppm以上の残留塩素を含むことが義務付けられており、この塩素が残ったまま凍らせると、味覚も食感も損なわれた氷になってしまうのです。
そのため製氷工場ではまず、活性炭ろ過・イオン交換膜・逆浸透膜法といった複数のろ過技術を組み合わせて塩素を徹底的に除去し、「純水」を作り出すところからすべてがスタートします。
いい氷を作るためには、水そのものの質から妥協しないということなのですね。
−10℃で48時間以上。急がない製氷の哲学
純水ができたら、いよいよ製氷工程に入ります。
塩化ナトリウムを混ぜた溶液である「ブライン」を満たした大きな水槽を−10℃まで冷却し、そこにステンレス製のアイス缶(容量135kg)を沈めて純水を注入します。
ブラインの冷気がアイス缶を通してじわじわと純水に伝わり、48時間以上という長い時間をかけてゆっくりと氷へと変わっていきます。
氷は固まるとき、自ら不純物を排除する
ここで活きてくるのが、氷が持つ非常に興味深い性質です。
水は液体のときにはあらゆる物質を溶かし込みますが、固体になる際には含有物を外へ排除し、純粋な水の分子だけで結晶を作ろうとする働きがあります。冬の池を思い浮かべてみてください。池の水がどれだけ濁っていても、表面に張った氷は透き通って美しいですよね。あれがまさにこの性質の証です。
製氷工場ではこの自浄作用を最大限に活かすために、とにかく「ゆっくり」凍らせることにこだわっています。
家庭の冷蔵庫でも製氷はできますが、冷却速度が速すぎるために不純物が氷の内部に閉じ込められてしまいます。
−10℃というあえてぬるめの温度設定こそが、純度と硬さを両立させる上で非常に大切な要素なのです。
空気を追い出す「エアレーション」という工程
さらに、氷の品質を下げるもう一つの天敵が「空気」です。
水には空気が溶け込んでいて、そのまま凍らせると気泡が氷の内部に残り、脆くて白濁した氷になってしまいます。
これを防ぐために製氷工場で行われているのが「エアレーション」という工程です。
アイス缶の中にパイプを差し込んで空気を送り込み、氷と水の境界面を勢いよく撹拌することで、集まった空気や不純物を水流によって剥ぎ取り、大気へと放出していきます。
一見地味な作業に見えますが、透明で硬い氷を作る上では決して欠かすことのできない工程です。
透明な部分だけを切り出して、BARへ
ですがこれだけの手間と時間をかけても、アイス缶の中心部にはどうしても空気が残ってしまい、真っ白な芯ができてしまいます。
そのため氷販売店ではこの白い芯を丁寧に取り除き、透明な部分だけを切り出してBARに納入しています。
BARのグラスの中に収まるあの美しい透明の氷は、長い製氷工程と職人による選別・手仕事によって初めて生まれるものなのです。
ちなみにBARでは自動製氷機を使うこともありますが、その場合あえて冷凍庫で「再冷却」することで少しでも硬さを高めるという工夫をしているそう。
「カラン」という音に宿る、職人の技術
グラスに氷を入れたときに響く「カラン」という涼やかな音は、硬い氷とグラスが奏でるハーモニーです。
そして純度の高い氷は、ウイスキー本来の風味を邪魔することなく、ゆっくりと、そして程よく冷やし続けてくれます。
48時間以上の製氷工程と職人の技術が、あの一音と最高の一杯を陰で支えているのです。
せっかくいいお酒を飲むのですから、グラスの中の氷にも少し思いを馳せてみると、その一杯がまた違って感じられるかもしれませんよ。
家の冷凍庫が苦手なこと


一方で家庭用の冷凍庫は、-25℃前後で一気に凍らせる設計になっています。
氷屋の-10℃・48時間以上と比べると、その差は一目瞭然ですよね。
凍るスピードが早すぎて、法律で義務化されているカルキをはじめ不純物や空気を外に逃がす前に閉じ込められてしまいます。
だから家の氷は白く濁るし、密度が低いからすぐ溶けてしまう。
最初の一口は悪くないのに、5分後にはもう薄まっている——あの現象はそれが原因だったんですね。
冷凍庫の臭いが移るのも同じ理由で、不純物が多い氷ほど周囲の臭いを吸収しやすい。
こう考えると「家のハイボールはなんか違うんだよなあ」という感覚、ウイスキーや炭酸の問題じゃなくて氷が原因だった可能性が高いわけです。
氷は「形」でも飲み方が変わる


さらに、透明で硬い氷を作ることの大切さはわかったとしてもうひとつ大事な話があります。
氷は形によっても、飲み物との相性が変わるということ。
よくBARでロックグラスに入っているのが丸氷。
あれがなぜあの形なのかは見た目だけではないのです。
球体は同じ体積の中で最も表面積が小さくなる形なので、液体に触れる面積が少なく、ゆっくりと溶ける。
ウイスキーのロックは、氷が少しずつ溶けることでアルコールの角が取れ、香りがふわっと立ち上がるという変化を楽しむ飲み方なので、丸氷との相性は抜群というわけです。
一方でハイボールには氷柱型(スティック型)が向いているとされています。
ハイボールグラスは縦長なので、丸い氷だとどうしてもグラスとの隙間が大きくなってしまう。
スティック型はグラスの形にフィットしやすく、しかも転がらないので安定する。体積が大きい分だけ冷却効果も高く、炭酸が抜けにくいというメリットもあります。
氷業者さんから卸される大きな氷柱を、バーテンダーさんがアイスピックで削り出してグラスに合わせる——あの作業も、ただの演出じゃなくてこういう理由があったわけですね。
形まで考えだすと、氷ってなかなか奥が深い。
家庭での再現は不可能なのか?


「カラン」という音にも、BARの一杯が美味しいのも、調べるとちゃんと筋の通った理屈がある。
高いウイスキーを買うのが悪いとは言わないけれど、氷を変えるだけで同じウイスキーが別物になる可能性があるとしたら——それはなかなかの発見だと思うわけです。
では、あの氷を家で再現することはできないのか?


結論から言うと、できます。
調べていくなかで知ったのが、MALTICE(モルトアイス)という家庭用の製氷器です。
断熱構造によって家庭の冷凍庫でもゆっくり凍らせることができる仕組みになっていて、24〜30時間かけて透明な氷を作れる。
水道水でいいし、冷凍庫に入れるだけ。
業者さんの氷と設計思想は同じなので、とけにくさや持ちが倍になったというレビューも散見されます。
そしてこの製品の最大の特徴が、スティック型(氷柱型)の透明氷を作れるという点です。
メーカーの調査によると、2025年4月時点の主要ECでスティック型の透明氷を家庭で作れる製氷器は国内でこれ以外に流通が確認されていないとのこと。
あのハイボールにすっと入る細長い氷柱を自宅で作れる製品は、今のところここだけということになります。
クラウドファンディングで1億円以上集まったというのも、「家のハイボール、なんか違うんだよな」と思っていた人がそれだけ多かったということの証しではないでしょうか。
気になった方はリンクを貼っておくので、覗いてみてください。
まとめ


氷を調べてみるなんて、最初はほんの思いつきでした。
でも調べていくうちに、
- 48時間かけて作られる氷のこと
- 135kgのアイス缶と芯を切り落として納入するという話
- BARが再冷却まで工夫しているという事実
- グラスと硬い氷が奏でる音へのこだわり
知れば知るほど、氷屋さんやバーテンダーの方々への見方が変わっていった気がします。
ただの“冷たい固まり”が、まるで煌びやかな宝石に見えてくるかのような—。
家で作る一杯が、BARの一杯に敵わない理由、それは技術や設備の差だけではなく、氷に向き合ってきた人たちの時間と哲学の差なのかもしれません。
でも、だからこそ面白い。
家でもその世界に少しだけ触れられる方法があると知ったとき、日常の一杯がほんの少し特別になる。
そんな小さな発見を、これからもこのブログで共有していけたらと思っています。
そして、もし機会があれば皆さんもグラスの中の「カラン」に耳を澄ませてみてください。
そのお酒が良き一杯になることを願って。
それでは。
サラリーマンの傍らブログ運営。
お酒にまつわる情報や考えを、心理学や哲学など色んなネタを絡めながら発信しています。
気分によって文体がコロコロ変わるので悪しからず。










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